乳がんでも手術したくない


【日々の診療より】

 30歳代後半の女性が左乳房腫瘤を主訴に受診されました。これまで元気で病院にはほとんどかかったことがなく、乳がん検診も受けたことはなかったそうです。家族歴もありませんでした。

 視触診上、左乳頭直下にφ30mm大の硬いしこりを確認、また左脇の下にもφ15mmまでの腫れたリンパ節を認めました。左乳癌腋窩リンパ節転移疑いの所見でしたので早速いろいろ検査を行いました。

【検査結果】

 マンモグラフィ上、左乳頭直下に背景乳腺濃度上昇を伴う構築の乱れカテゴリー4を認めました。また左腋窩には腫大リンパ節を認めました。超音波検査でもマンモグラフィの所見に一致して左乳頭直下にφ28mm大不整形低エコー腫瘤、また左腋窩には腫大リンパ節を複数認めました。乳腺腫瘤に対し針生検、腋窩リンパ節に対し細胞診を行い、予想通りの結果でした。

 局所的に進行していましたので、他臓器転移の有無を確認するためCT検査などを追加しましたが、幸いなことに他に病変を認めませんでした。画像所見からはステージⅡB(サブタイプはルミナールハーツータイプ※)の診断でした。標準治療としては、原則術前化学療法を行った後手術になる旨説明させていただきました。

【治療をどうするか】

 30歳代の若い女性でしたので、手術を含めた治療方法について心配されるだろうと思い、乳癌治療ではトップランナー的な施設へ紹介させていただきましたが、後日再度来院され“手術はしたくないので、知り合いが勧めているクリニックに行きたいと思っている”と相談されました。

 乳癌と診断された患者様の中には、この患者様と同じように乳房の手術に強い抵抗感があり、標準的な治療(根治、つまり病気が治る見込みがある段階では手術が必須)とは異なる治療方法を探す方も一部いらっしゃいます。重大な病気に対してどのような治療を選択するかは最終的にはご本人が決めるものですし、また一人一人の人生観なども関係してくることですから、その患者様にとって何がよい選択、悪い選択と一概に言えないことは一個人としては十分理解しています。ただし一人の乳腺外科医としては、やはり根治が見込める段階で発見されたのであれば、標準的な治療を選択することを勧めます。現在治験段階の凍結療法やラジオ波療法など、専門的な施設で手術の代わりとなる方法を行っている場合もありますが、これらの方法も大きな意味では手術と同様“病変を取り除く”治療と言えます。

 今回の患者様は凍結療法などとも異なり、乳房に何らの手を加えることのない治療のようでしたが、私としては標準的な治療で十分治る見込みのある段階であり、手術をする方向で考えて欲しいと時間をかけて説明させていただきました。この患者様は、最終的には当初の予定通りの施設を受診してくださいました。
特に、乳癌の場合乳房を失うという女性にとって非常に大きな問題を伴うこともあり、これについての考えは人それぞれであるとは思います。ただ、ひとりの医師としてはやはり乳房をどうするではなく、病気を治すことを最大の目標にしてより良い治療法を選択していただきたいと思っています。
 
※乳癌は“ステージ”と“サブタイプ”の2つから治療方法を決定します。サブタイプについてはまた別に説明する予定です。