嚢胞の周辺が痛くて心配な時は

嚢胞のあたりに痛みを感じて心配です

 40歳代後半の患者さんが“嚢胞が痛い”と受診されました。少し前に乳がん超音波検診で“嚢胞”を指摘され、要精査の結果ではなかったものの気になって乳癌治療の専門的な病院を受診、そのまま放置しておいて問題ないと言われたそうです。しかし、3cmほどの嚢胞のあたりに痛みも感じるため心配と当院を受診されました。

 以前のブログでも触れていますが、嚢胞は分泌物が袋状に溜まったもので、超音波検査をすれば若い方から閉経前後の年齢の方に指摘されることの多い良性所見の一つです。

乳腺嚢胞

 “小嚢胞集簇”や“嚢胞内腫瘍”など“嚢胞”という文字が含まれていても悪性の可能性を否定できない、精査が必要な所見が一部にありますが、単純な“嚢胞”であれば、大きくても、たくさんあっても乳腺外科的な治療が必要な病気ではありません。特にこの患者さんのように閉経期になってくると、乳腺症性変化として嚢胞がたくさんできてくることがあります。さらに年齢を重ね、乳腺が萎縮してしまうと嚢胞も消えていきますので、基本的には前医の指示通り“そのまま放置”するものです。

 当院でも単純性嚢胞と診断した場合には精査や治療の必要がないことを説明させていただいております。(内容に血液成分や膿などの存在が疑われる場合や、充実部(しこり)が存在する可能性があるなど単純性嚢胞と断定できない場合には、内容物を穿刺吸引※1して確認、場合によっては細胞診を実施することもあります。)

 この患者さんにも、前医の説明の通り問題ないと説明させていただいたところ安心してくださいました。ただ、今回のように比較的大きな嚢胞が痛いと受診される患者さんが時々いらっしゃいます。嚢胞自体が痛いというより、そのようなものができる乳房の環境(乳腺症)だったり、嚢胞によって周囲を圧排することによる張りや痛みが生じていると考えます。嚢胞を穿刺吸引している施設もあるようで、『前に分泌液を抜いてもらったら、楽になった』と患者さんから言われることがあり、当院でも嚢胞が大きい場合は患者さんの希望によりごくまれに穿刺することもあります。ただし、明らかに単純性嚢胞と診断できる場合、基本的には穿刺は必要ないものですのでこちらから勧めることはありません。また、溜まりやすい部分でもありますから、またすぐに同じような大きさに戻ってしまう場合もありますので、むやみに穿刺はいたしません。

※1注射器で内容物を吸引、採取すること

血性乳頭分泌で見つかった乳癌

 先日のブログで、“乳頭分泌”を訴えて受診する患者さんが多いことに触れ、特に若い患者さんではその多くが皮膚のトラブルで、乳頭分泌でないことが多いと書きました。そんな中、典型的な“血性乳頭分泌で発見される乳癌”の患者さんが先日来院されました。

 患者さんは30歳代半ばの元気な方で、10日ほど前ブラが茶色っぽく汚れていることに気づき、乳頭を搾ってみると血が出てきたため驚いて受診されました。これまで乳がん検診歴はなかったそうです。
 
 視触診をしてみると、両側乳房ともにしこりは触れませんでした。また、先日書いたような乳頭乳輪部皮膚のただれや乾燥など皮膚異常も全くありません。しかし、乳頭をつまむと乳管口(乳頭にあるミルクの出口)からやや茶色がかった血液がしずくのように出てきました。これが本当の乳頭分泌です。しかも、血性乳頭分泌でしたので乳癌を含めた病変の存在が疑われます。さっそくマンモグラフィと超音波検査で確認しました。マンモグラフィは異常ありませんでしたが、超音波検査では右乳頭直下に内部エコーを伴う乳管拡張像を認めました。乳管の中に何らかの腫瘍性病変を示唆する所見(乳管内病変疑い※)でしたので、生検を実施したところ“非浸潤性乳管癌/DCIS”の結果でした。

 白色や透明なものは乳腺外科的な病気の可能性は低いですが、この患者さんのように茶色や赤色を呈する血性分泌や、黄色透明の漿液(しょうえき)性の場合は何らかの病気を考える必要があるので乳腺外科での検査が必要です。

 血性乳頭分泌でも問題ないこともありますが、乳腺外科的な病気によるものなら、典型的にはマンモグラフィでは“石灰化”、超音波検査では“乳管内病変”、マンモグラフィと超音波検査いずれでも“乳頭直下または近傍の腫瘤像”が確認できると思います。分泌の色調などは一般の方が判断するのは難しい場合もあると思いますので、乳頭分泌を心配されている方は一度受診してみてください。


 
※乳管内病変とは分泌物を運ぶ乳管内にできる腫瘍性病変で、主に良性では乳管内乳頭腫、悪性では非浸潤性乳管癌があります。いずれも血性乳頭分泌を呈することがあります。画像のみでは良性か悪性かの判断が難しい場合があり、生検が必要となります。

乳頭分泌がある時は

 乳頭分泌を訴える患者さんが最近また増えている印象です。特に当院では若い患者さんがそのように訴えて受診されることが多いですが、診察してみるとその多くは私たちが言う乳腺外科的な“乳頭分泌”ではなく、皮膚のただれなどから生じる“浸出液(皮膚からしみ出ている液)”だったりします。皮膚にキズができると、グジュグジュしますよね?これがブラを汚したりして“乳頭分泌”として受診されることがあるのですが、それは乳腺外科的な病気ではなく、皮膚の問題です。特にアトピー性皮膚炎など皮膚がもともと弱い方に多いですが、乳頭乳輪の皮膚がブラなどでこすれることで皮膚が刺激を受け、グジュグジュしてしまっているのです。
 
 乳頭分泌とは、授乳するときに乳頭からミルクがしずくのようにしたたり落ちるように、乳頭にある分泌物が出てくる穴(乳管口)からでるものを指します。乳頭や乳房を軽くつまんでみて、しずくが出てくるようなら乳頭分泌の可能性があります。乳頭分泌の細かいことについては以前のブログで説明していますので、もしよかったら読んでみてください。

【日々の診療より】~“乳腺分泌“という症状から発見された乳癌の一例~
乳管内乳頭腫や嚢胞内乳頭腫って何?
 
 
 そうは言っても、自分で判断するのは難しいと思いますので、心配になったら一度乳腺外科を受診して確認してもらってくださいね。


 

偶然発見した乳腺腫瘤

 年の瀬のあわただしい時期ですので、今日はちょっとゆるりとした話題にしたいと思います。

 当院は、他の医療機関からCTやMRIなど画像検査を依頼されて実施する施設なのですが、心臓CT検査のため50歳代の女性患者さんが、少し前当院検査部門を受診されました。その検査でたまたま乳房に腫瘤が確認され、外来診療中の私に連絡がありました。画像をみると、確かに左乳房全体を占める巨大腫瘤がありました。こんな時、もちろんその事実を伝えるべきではありますが、乳房のことは人によっては結構デリケートな問題で、よかれと思ってダイレクトに『しこりがあります!!』と言っても問題ないときと、例えば今回のように大きなしこりの場合は分かっていて自分の判断でそのままにしていることも結構あったりして、言い方によっては余計なお世話になることも意外とあります。そこで、その患者さんは心臓の超音波検査も同時に受ける予定でしたので、女性の超音波検査技師に検査の合間にそれとなく患者さんに心配ごとがないか、世間話をする雰囲気で聞いてもらったところ、乳房のことを話されたため、そのままスムーズに乳腺外来を受診していただけました。

 その患者さんによると、しこりがあるのはわかっていたけど、家庭のことなどいろいろ忙しくて、もちろん気にはしていたけれどなかなか受診できなかったそうです。心臓の検査のついでといってはいけませんが、乳腺の検査も受けられてよかったと言って帰られました。

 大きな腫瘍ではありましたが、結果は良性葉状腫瘍の診断でした。葉状腫瘍は再発など心配がないわけではありませんが、基本的には手術で切除すれば問題ありませんので、安堵しておられました。(少し前に無事に手術が終了したとの連絡がありました。)もし今回心臓の検査で当院を受診されなかったら、そのままにしていたと思うと本人より伺い、協力してもらった検査技師ともよかったねと話をしました。

 このように、肺や心臓など別の検査で偶然乳房のしこりを見つけることがしばしばあります。そして、この患者さんのようにスムーズに治療に繋がると嬉しいものです。もちろん、皆さんにはその前に定期的な乳がん検診を受けることをお勧めします。

 今年、そう言えば乳がん検診を受けなかったなと思われているこのブログの貴重な読者さんの中で、乳がんになる可能性のあるお年頃の皆さんには、当院でも乳がん検診を行っていますので、来年こそ必ず受けていただくことをお勧めします。検診による早期発見が大切です。

  新年が皆様にとって実り多き良い年でありますように!

AIC八重洲クリニック 乳がん検診(乳がんドック)のご案内

乳腺症と診断されています ~乳腺症とは~

 当院を受診される患者さんの問診票に“以前、乳腺症と診断された”と記入されていることがしばしばあります。特に20歳代と若年の患者さんの問診票によく見受けられるので、ちょっと驚いたりします。

 乳腺症は、正常乳腺が長年にわたって女性ホルモンに影響を受けながら増殖と萎縮を繰り返す間に、乳腺内の増殖している部分と、萎縮や線維化している部分が混在するようになる病態で、症状は乳房の疼痛や乳房の硬結(硬く触れること)、乳頭分泌など多彩です。一般的に35歳前後以降の成熟期女性に好発し、閉経後急速に減少します。生理的変化の一環であり、診断名として“乳腺症”とは言いますが、病気ではありません。適切な例えかはわかりませんが、顔にしわができるのは病気ではなく、生理的変化(加齢による変化)ですよね、それと同じように考えるとよいかも知れません。当院を受診された患者さんにも、このように説明してみるとわかってもらえるので、診察でもよくこの例えを使っています。

 時々、『乳腺症と診断されたので。』と心配で受診される方がいらっしゃいますが、上述したように生理的変化(年齢的に乳腺も変化してくる)ですので、特に治療が必要なものではなく、心配する必要はありません。また、20歳代それも前半の患者さんが乳腺症と言われたと受診されることがありますが、最初に書いたようにその診断には少しびっくりしてしまいます。乳腺が女性ホルモンへの反応を周期的に繰り返す結果、だんだん変化してくる病態ですから、一般的には30歳代後半以降に出現します。早い方で30歳前後の方もいらっしゃいますが、20歳代前半となってくると少しムリがあります。このような患者さんの一部は画像で診断されたわけではなく、痛みや乳腺のゴリゴリしたしこり?を訴え、その症状のみから乳腺症という診断がなされていたり、または超音波検診で画像所見上“乳腺症疑い”と診断されている場合もあります。ただし当院で超音波検査をすると、若年の患者さんの多くは正常範囲内の所見で、超音波検査でいくつかパターンのある乳腺症性変化を示唆する所見を確認できる方は少ないです。

 乳腺症と診断される場合、上述のように症状のみから診断されることがあるようですが、この場合、年齢的な変化である乳腺症による症状と正常乳腺によるそれとの境界は曖昧で、これが乳腺症の問題点の一つです。正常乳腺でも女性ホルモンに反応しながら、周期的に変化をしており、この中で生理的な痛みやゴリゴリ感が出現することは異常なことではありません。この正常な働きの中での症状と、その延長線上にある乳腺症の症状は類似しており、症状のみで区別するのは困難です。

 症状のみではなく、乳腺が増殖と萎縮を繰り返す中で変化したことを画像や病理所見から確認できた場合に乳腺症と診断することが多いです。当院でも、マンモグラフィや超音波検査にて画像上乳腺症性変化が確認できた時、またその部位に生検を行い“組織学的に”診断がついた患者さんに対し乳腺症と診断しています。乳腺症と診断されたからと言って、治療が必要な病気ではありませんので基本的に心配する必要はありません。

 乳腺症には様々なタイプがありますが、非浸潤癌との区別が困難なものや、硬化性腺症のように癌が含まれる可能性を考えなければいけない種類が一部にありますので、ケースにもよりますが限局性(ある部分のみに所見がある)に画像で乳腺症性変化を認めた時には生検(針生検や摘出生検)での確認が望ましいです。

局所的非対称性陰影とは?

 先日、併用検診総合判定についてのブログでも少し触れましたが、マンモグラフィ検診の異常所見のひとつに“局所的非対称性陰影”があります。
 非対称?なんだかよくわからない所見のひとつではないでしょうか?この所見で当院を受診される患者さんにも、まず初めにその意味するところを説明し、理解していただいてから検査を始めています。

 局所的非対称性陰影(“FAD”とも言う)は、“正常乳腺の一部かも知れないけど、しこりの可能性もあるかな?”という所見です。マンモグラフィ画像には、正常乳腺組織(白)と脂肪組織(黒)がまだらに存在し(ほぼ白、ほぼ黒の方もいらっしゃいますが)、しこりも白いので、正常乳腺組織の一部が一見しこりっぽく見えることがあります。

 “腫瘤(しこり)”や“石灰化”というマンモグラフィで代表的な所見がありますが、これらは例えばそのマンモグラフィを読影した医師のほとんどが指摘できるはっきりとした所見です。一方、“局所的非対称性陰影”については、上記2所見と同様ほとんどの医師が指摘するものもありますが、読影医によっては指摘したりしなかったりとあいまいなことも多いです。

 “局所的非対称性陰影”で再検査の場合、超音波検査で確認をしますが、結果は下記のいずれかになります。
 
①正常乳腺組織の中に、密度が高い=より白く映る何か(病変)が存在
②正常乳腺組織が重なり、周囲よりも厚く=より白くみえてしまっただけ=正常

ただし、ほとんどは②であり、①本当の病変はごくたまにある程度です。
(①の場合は、前述しましたがおそらくほとんどの医師が所見ととるような場合です。②は所見としてはとらない医師も多い類の“局所的非対称性陰影(もどき)”だったりします。)

 マンモグラフィは乳房を薄くのばして圧迫して撮影しますので、どうしても一部重なりが強くなってしまう場合や、もともと乳腺に左右差がある方も多いですので、マンモグラフィを撮るたび毎回要精査になって、精密検査で毎回問題ないと言われている患者さんもおられます。

 このように、局所的非対称性陰影のほとんどは問題ないですが、指摘された場合は必ず超音波検査を受けて確認してくださいね。

乳管内乳頭腫や嚢胞内乳頭腫って何?

超音波乳がん検診を受け、その結果表に“乳管内乳頭腫”や“嚢胞内乳頭腫”疑いと書いてあったことはありませんか?

乳管内乳頭腫とは分泌物を運ぶ乳管内に発生する良性腫瘍で、自覚症状として乳頭分泌を伴うことがあり、それが血性分泌の場合もあります。
乳頭近くで孤立性腫瘤として認められることが多い(中枢型)ですが、乳腺末梢にも発生し(末梢型)、この場合多発することもあります。
また管状の乳管が袋状(嚢胞状)に拡張したものを嚢胞内乳頭腫と呼ぶことがあります。
好発年齢は30歳代後半から50歳代です。

乳管内乳頭腫や嚢胞内乳頭腫疑いで乳腺外科を受診される患者さんの多くは自覚症状がなく、乳がん超音波検診で指摘された方ですが、たまにどちらか一方の乳頭分泌(黄色透明な漿液性が多いですが、時に茶色や赤色の血性のことも)を訴えて受診され見つかる場合もあります。

超音波画像では充実部(腫瘍細胞のかたまり)のみの場合と、嚢胞部(液体成分)+充実部の場合があります。いずれも乳管や乳管が袋状になった嚢胞内にできる腫瘍であることから、特に中枢型では画像上一部の乳癌(非浸潤性乳管癌、嚢胞内乳癌、嚢胞内乳頭癌などと呼ばれるもの)との鑑別が問題になります。
このため、乳管内乳頭腫や嚢胞内乳頭腫疑いの中で少し怪しいもの、悪性の可能性が否定できないものに関しては乳がん検診で“再検査”の指示がでます。

多くは問題ありませんし、また万が一、乳管内乳頭腫/嚢胞内乳頭腫疑いから乳癌と診断された患者さんでも、早期癌ですから心配しないでくださいね。再検査と指示があったら、一度乳腺外科を受診して安心してください。

ステージとサブタイプ

 乳癌の治療方法は手術療法、薬物療法、放射線療法などをその患者さんの病状に合わせ組み立てて決定します。この治療方法を決める際に必要な情報は大きく2つあり、それがステージ(病期)とサブタイプです。
 
 ステージは簡単に言うと、体の中のどの範囲に癌が広がっているかを示します。例えば乳房のしこりが2cm以下で、リンパ節や他の臓器に転移がなければステージⅠ(浸潤癌の場合)、また他の臓器、例えば骨や肺などに転移があれはステージⅣになります。(ステージは0~Ⅳまであります。)

 これとは別に、1つ1つの癌細胞の性質をタイプ別に示したものがサブタイプです。ホルモン療法が効くか効かないか、また抗ハーツー薬が効くか効かないか、これに加え増殖能が高いか低いか(癌がおとなしいタイプかエネルギーの高いタイプか)を調べてこのサブタイプは決まります。ステージ(乳癌の広がり)とサブタイプ(乳癌の性質)は全く別の要素ですから、例えば同じステージでもサブタイプはいろいろです。

 以上の2つをふまえて治療方針の決定するので、例えば同じステージⅠなら手術は必須ですが、薬物療法についてはある患者さんはホルモン療法だけ、別の患者さんは化学療法だけ、また別の患者さんはどちらもすると違ってきます。(※手術が出来るかどうかは乳癌の広がりを示すステージで決まります。)
 
 以前、私が病院勤めをしていた時、ある患者さんから『友達がステージⅠで、ホルモン療法をしたって聞いたから私も同じですよね。』という質問をされたことがあります。その方のサブタイプはトリプルネガティブだったので、ホルモン療法ではなく化学療法をする必要があることを伝えると、ホルモン療法だけだと聞いて本人は安心していたそうで、そうでないことに初めはがっかりしていたことを記憶しています。同じ乳癌でも治療方針は患者さんそれぞれです。
 
 細かいことを書くと混乱すると思うので、とにかく乳癌の治療は基本的にはステージとサブタイプの2つの要素から治療方法を組み合わせることを憶えておいてくださいね。ただし、乳癌の治療は日進月歩で進んでいますから、あくまで現時点でのお話です。

最近の乳癌手術の傾向

 前回、手術を嫌がる患者さんについて書きましたが、実際、乳癌と伝えた時に心配されることは大きく2つあって、まずは病気が治るの?ということと、次にどういう手術をするの?という心配です。病気が治る、治らないについては別の項にするとして、乳房の手術に関しては大きく温存術(部分的に切除)か全摘術(乳房全体を切除)に分けられます。

やはり多くの女性の患者さんは自分のボディイメージが変わってしまうことに強い拒否感を抱きますから、かつては患者さんの生活の質が低下しないように(見た目の変化による様々な問題に困らないように)、また以前は“温存率が高い病院=良い病院”のような風潮もあって、なるべく温存しようというスタンスであったことは事実だと思います。実際、いろいろな医療情報誌などでも温存率ランキングなどの記事が載っていました。80%以上の温存率の施設が多くあったと記憶しています。

しかし、現在ではムリに温存せず、きちんと切除して治療することが見直され、特に数年前に乳癌手術においてシリコンインプラントでの乳房再建術が保険適応になったこともあり、全摘+再建という術式を選択できる施設が増えてきて、現在では温存率は専門的な施設でも50%程度まで下がっています。全摘+再建術は乳房のふくらみを人工物等で再現しますから、全摘術の大きな問題である乳房喪失感をカバーできます。ただ、人工物の場合、現時点ではオーダーメイドではありませんので、以前とそのまま同じ形を期待してしまうと少しハードルが高くなってしまうかも知れませんが。

もちろん、温存率が下がっているとは言え温存術がダメな術式というわけでは全くありません。適切な温存術は良い手術方法のひとつに変わりありません。また、インプラント使用には一定の基準があり、乳腺外科であればどの施設でも使用できるわけではありませんので希望される場合はよく調べて下さいね。

嚢胞が心配

 職場の一般健診のオプションで乳がん超音波検診を受けておられる患者様は多いと思います。その結果表でよく目にする“乳腺嚢胞”という所見がありますが、最近この所見を心配し受診される患者様がおられます。

 乳腺嚢胞とは、乳腺内で分泌物を乳頭まで運ぶ管(乳管)に分泌物が溜まり袋状になったもので(単純性嚢胞)、誰にでも認められる良性所見であり問題ありません。この所見を心配して受診された患者様にに対し、当院で再度超音波を実施してもやはり単純性嚢胞の所見のみで問題ないことがほとんどです。
 ただ、直近の超音波検診で“乳腺嚢胞”と診断された2人の患者様が、当院で乳癌と診断されるケースを最近続いて経験しましたので紹介させていただきます。

[ケース1]

3ヶ月前の検診で“右乳腺嚢胞”問題なし、最近左乳房から左ワキ周囲の痛みが気になるため受診された40歳代の患者様です。既往歴や家族歴はありませんでした。
左腕を挙げた時に痛みを感じるという主訴でしたので、肩関節周囲炎など整形外科的な症状の可能性が高いと考えましたが、念のためマンモグラフィと超音波検査で確認しました。

[ケース2]

 1ヶ月ほど前に受けた検診の判定表に“左乳腺嚢胞”良性所見で問題なしと記載されていたが心配なのでと受診された30歳代の患者様です。既往歴や家族歴はありませんでした。記載されている所見は問題ない旨説明しましたが、本人の希望もあり念のため超音波検査で確認しました。

 2人とも数ヶ月以内に乳がん超音波検診を受けていて“嚢胞”の所見のみでしたが、結論からすると2人とも当院にて精査の結果、乳癌の診断となりました。いずれも組織型は非浸潤性乳管癌(DCIS)でした。ともに超音波画像では一見“濃縮嚢胞”(後述)に見えるのかも知れませんが、境界部が粗造な印象の腫瘤像が同じ腺葉に複数連なっており、まず第一に非浸潤癌を疑わなければいけない所見でした。(乳腺には分泌物をつくり、それを乳頭に運ぶ働きがありますが、乳頭から外側に向かってみかんの房のようなユニットが複数集まった構造をしています。このユニットを“腺葉”と言います。)

 乳癌が乳房内に広がるパターンの一つとして、分泌物を運ぶ管(乳管)を這うように広がるものがあり、途中でいくつかの腫瘤が連なったような所見になる場合があります。ひとつひとつの腫瘤は確かに濃縮嚢胞にも見えないこともないですが、1つ1つの腫瘤をよく観察し、また全体像としても捉えるときちんと乳癌と診断できます。

 嚢胞で心配される方の多くはもちろん単なる嚢胞と思いますので、むやみに心配する必要はありませんが、今回2人の患者様が同じような所見でたまたま当院を受診して、乳癌の診断になったことで、私も少し驚いたので紹介させていただきました。

“嚢胞”が含まれる所見いろいろ

①単純性嚢胞
単純に分泌物が溜まっているのみ。超音波検査では無エコー腫瘤。

②濃縮嚢胞
単純性嚢胞の蛋白などの内容物がやや混濁している。超音波検査では低エコー腫瘤として確認できる。ただし、画像では主に線維腺腫など充実性腫瘤との鑑別が難しいことも。(今回のケースはこれに該当するのかな?)

③嚢胞内腫瘍
嚢胞内に充実部分(細胞成分)が確認できる場合は嚢胞内腫瘍(嚢胞内癌を含む)の可能性があり精査が必要です。

④小嚢胞集簇
小嚢胞が集まって認められる所見で、主に乳腺症が疑われるが非浸潤癌でもみられる所見であり、これも精査対象です。