乳輪下膿瘍について

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 先日40歳代後半の患者さんが、右乳房のしこりと少しの痛みを訴えて受診されました。これまで一度も乳がん検診を受けたことはなかったそうです。
まずは視触診をしてみると、確かに左に比べて右乳房はやや大きく腫脹しており、乳頭部からその周囲の皮膚がピンク色に変色していました。ただ、本人の訴えるしこりはあまり硬くはなく、大きいですが柔らかく触れました。また、皮膚も肥厚してはおらず柔らかいままでした。

乳房にしこりと発赤となれば、概ね①何らかの炎症性疾患、②乳癌を考えます。
特にこの患者さんのようにある程度の年齢であれば②も十分考えなくてはいけませんので、問診票をみた段階では少し身構えました。ただ、視触診では①の可能性が高いと思われましたので、ひとまずホッとしました。乳癌の場合、特に炎症性乳癌では皮膚が硬く肥厚し、また乳房全体も硬くなって、例えば乳房をゆさゆさ揺らしても固定して動かない状態ですが、この患者さんの場合はそうではありませんでした。

その後、マンモグラフィと超音波検査をした結果、やはり①の中の乳輪下膿瘍と診断できました。膿瘍腔(膿の溜まり)はかなり大きく8cm程度に溜まっていました。この患者さんには切開排膿の必要がある旨説明しましたが、本人も乳癌だと思って来院したようで、もちろん処置は必要なのですが、安心されていました。

乳輪下膿瘍は乳輪下に発症する炎症性疾患で、一般的には20~30歳代に好発すると言われていますが、実際にはある程度の年齢の方でも時々みかけます。乳頭近くの乳管が閉塞してそこに細菌感染が起こり、膿瘍形成する病態です。時には膿瘍により正常組織が破壊され瘻孔形成も起こります。(中の膿によって破壊された皮下、皮膚を伝って、膿が体外に漏出する状態です。)イメージしやすいと思いますが、陥没乳頭の方に起こることが多いと言われています。これは、乳頭が陥没していると乳管が閉塞しやすいためです。この他、喫煙や肥満、糖尿病などもリスク因子とされています。やはり感染に弱い病気や身体の状態であることがリスクになります。

膿瘍は切開排膿、溜まっている膿を皮膚切開してその部分から排除する必要があります。ただ、一度治癒してもまた炎症を繰り返すことも多く、その場合は膿瘍腔や瘻孔、責任乳管を合併切除する手術適応となります。

[参考ページ]
All About 乳がん.Info
Q.乳輪下膿瘍とは、どのようなものですか?
http://nyugan.info/allabout/qa/qa1_worry/qa1_5.html

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