脂肪注入で豊胸した方のしこりについて

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豊胸手術後のしこり

先日、30歳代の方が当院を受診されました。少し前に脂肪注入による豊胸術を受けたそうですが、しばらくして両側の胸にしこりを自覚するようになったそうです。超音波検査の結果、両側の乳腺内に何も所見はありませんでしたが、乳腺外(皮下組織内や乳腺後隙:乳腺組織の胸壁側)に嚢胞性変化を多数認めました。脂肪注入による典型的な所見です。これらのうち、皮下組織内にあるものを“しこり”と訴えていることがわかりました。

これは乳腺外科的な病変ではなく、脂肪注入後の変化ですので、豊胸術を受けた施設に相談していただくしかありません。私は豊胸術の専門家ではありませんが、脂肪注入をした脂肪組織は一般的に“生きた脂肪”ではありませんので、時間を経て硬さのあるしこりとして感じるようになるのは十分ありえることです。この方もそうでしたが、脂肪注入後のしこりで何軒も乳腺外科を受診している方が少なからずいらっしゃいますので、これについて少し説明したいと思います。

まず、脂肪組織にも“生きた”ものと、そうでないものがあります。例えば、乳がんの自家組織再建(自分の組織を使う再建、腹直筋皮弁再建や広背筋皮弁再建など)においては、おなかや背中の筋肉と脂肪組織を生きた状態のまま、切除した乳房のあったところにローテーションさせるものです。この“生きた状態”にするために、その組織を栄養している血管もつけたままにします。(組織が生きているためには、血管から栄養を得ることが必要です。)このように“生きた状態”の脂肪組織であれば、私たちのおなかなどの脂肪と同じように、ぷにょぷにょした柔らかい脂肪のまま身体の中にとどまります。

一方、豊胸などで注入する脂肪は、注入できるくらいですから注入してすぐは軟らかいですが、どこかから栄養がくるわけではありませんから、その後脂肪変性という変化が起こります。時間が経つと硬くなります。
私が以前、一時期行っていた遊離真皮脂肪織片移植という方法もありますが(下腹部の脂肪と真皮を一塊とした移植片を、部分切除で欠損した部分に移植するもの、移植片の真皮と、乳腺を切除した部分にある大胸筋の筋組織を接した状態にすることで、真皮と筋組織の間に新生血管が発達して“生きた脂肪組織”のまま生着するという理論で行っていました。)、新生血管はできるものの、その血管が不十分な場合には、やはりやや硬くなってしまうことがありました。

脂肪注入による豊胸術は通常乳腺後隙に注入し、その上に乳腺組織が存在するため、硬くなっても皮膚側からは触れないことも多いですが、この方のように皮下に注入してしまっていたり、乳腺後隙に適切に注入してあっても、大きかったり、かなり硬くなってしまったりすると触れるようになります。

今回の患者さんは、当院を受診する前にも別の乳腺外科で同じことを言われたそうですが、乳腺外科的な病気だと思っていたようで、当院を受診されたそうです。同じ結果であったため、ようやく納得されたようですが、ビー玉のようなしこりがいくつか触れるので気になるのはもっともです。特に皮下に注入してあったのはびっくりです。一度、きちんと形成外科を受診して相談するのもよいかとお勧めしましたが、どうしてもの場合、最終的には手術で摘出という方法になってしまいますから、説明しながら何ともやるせない気持ちになりました。

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