「抗がん剤は効かない」とお考えの方へ 抗がん剤の有用性について
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先日、40歳代の患者さんが『しこりがある』と受診されました。視触診では右乳房に5cm大のしこりと、右腋窩にも2cm大の腫れたリンパ節をいくつか触れました。すぐにマンモグラフィと超音波検査を実施しましたが、やはりリンパ節転移のある乳がんの所見でした。患者さんにも、おそらく間違いないと説明しました。
その翌日、診断確定のために針生検を行ったのですが、生検をする合間にいろいろ話をしていると、その患者さんは『抗がん剤は効かないから、もし自分ががんになってもしないと決めていた』とおっしゃいました。ご家族で乳がん闘病の末、亡くなられた方がいらっしゃるそうで、その治療を傍でみていた経験からそう思っていたそうです。
患者さんのいう“効く”“効かない”は、何を指しているのかはっきりとはわかりませんが、話の内容からすると“抗がん剤治療をしても、効果がなくていずれは亡くなる”という意味に受け取れました。
一般的に乳がんの治療で抗がん剤をするのは
①手術可能な段階において、手術の前または後で行う、
②転移、再発した段階で行う、
のいずれかです。
この患者さんは、腋窩リンパ節転移はありますが、他臓器に転移がなければ手術可能な段階の乳がんです。手術(この場合は根治術を指します。)可能な段階とは、手術をすることで、病気が治る(根治)見込みが十分あるということです。
ステージ0の乳がんなら、手術のみであとは経過観察となる場合が多いですが、ステージⅠやステージⅡの段階であれば、手術に加えて薬物治療(乳がんの場合、抗がん剤治療やホルモン療法)を行うことで、根治にもっていけることは、これまでの研究データで明白です。
残念ながら100%根治とはいかないので、この患者さんが言うような“抗がん剤をしても効かない”という患者さんも時々はいらっしゃることは否定しません。
ただし、ステージⅠやⅡの段階であれば、多くの患者さんはこれら治療を受けることで、転移再発なく過ごすことができます。
②の転移、再発した段階の患者さんにも抗がん剤はその使用に値するくらいの効果は認められています。そうでなければ、高額な抗がん剤が保険診療で使えるようにはなりません。
もちろん、治療の選択にはそれぞれの人生観が大きく関わってきますから、何が正解とは一概には言えませんが、手術をして治る段階で乳がんが発見されたのなら、治療を頑張れば、その頑張りに十分値する結果が生まれると思います。
もし、乳がんの治療で悩んでいて、このブログにたどり着いた患者さんがいらっしゃるなら、ひとりの医師としてぜひ根治を目指してほしいと伝えたいです。
[過去記事]
乳がん治療の化学療法について
[参考ページ]
日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン
Q45.抗がん剤治療(化学療法)は何のために行い,どれくらい効果があるのでしょうか。
http://jbcs.gr.jp/guidline/p2016/guidline/g7/q45/
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