乳腺炎と炎症性乳がんについて
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授乳中、あるいは授乳期以外でも『乳房が赤く腫れて、痛みもある』というような症状の患者さんが時々受診されます。たいていは、乳房の一部が硬くなって、皮膚の赤みがあり、視触診で乳腺炎だろうと推測し、画像検索でも乳腺炎に一致した所見を確認でき、抗生物質や解熱鎮痛薬を内服していただくことで、症状が改善することが多いです。また、膿が溜まってしまっている場合には、切開して膿を取り除く処置が必要なこともあります。
ただ、ごく希に乳房全体を硬く触れ、乳腺炎なのか、または乳がんの一種である炎症性乳がんなのか視触診だけでは判断が難しいような高度の炎症を来している患者さんがいらっしゃいます。どちらの場合も、乳房全体が硬く触れる、皮膚が赤く変色するという症状を伴います。例えばエコー検査では乳腺炎であれば膿が溜まっていること、広い意味での炎症性乳がん(腫瘤を伴うタイプ)であれば腫瘤が確認できるなど、容易に鑑別可能な場合もありますが、純粋な炎症性乳がんは腫瘤を伴わず乳腺から皮膚の炎症像を呈するのみですので、膿が溜まるまでになっていないような乳腺炎と区別することが難しい場合があります。ただ、大きな鑑別点としては、炎症性乳がんであれば橙皮様皮膚といわれるオレンジの皮のような質感、ゴワゴワ凸凹していると言っていいのでしょうか、そんな皮膚に変化しており、画像でも皮膚が分厚くなっています。一方、乳腺炎では炎症性乳がんと同様、乳房は硬く触れ、皮膚は赤くはなっていますが、そこまでゴワゴワした印象ではないことが多いです。
先日40歳前半の患者さんが、右乳房の痛みと右乳頭の陥凹を主訴に受診されました。5年前に出産、現在授乳中ではありませんでした。また、お母様が乳がんとのことでした。
右乳房は全体的に硬く触れ、また皮膚も広範囲で赤くなっていましたが、皮膚の厚みは気にならない程度で、凸凹した様子もありませんでした。マンモグラフィ、超音波検査でも右乳腺全体が炎症像を呈してはいましたが、膿の溜まりや腫瘤はありませんでした。また、皮膚の肥厚ととれる所見はありませんでした。乳腺炎の可能性が高いことから、通常は1週間ほどの内服薬での治療で経過を見て、経過によっては炎症性乳がんの除外診断をするため生検を行うのですが、ご家族が乳がんであることもあり、患者さんと相談して生検で確認を行いました。結果は乳腺炎の診断でした。この患者さんは、時間の経過とともに膿が溜まってきましたので、膿を取り出す処置を勧めさせていただきました。
私の経験上、皮膚の変化というのが、2つの病気を鑑別するためのポイントであると感じてはいますが、炎症性乳がんは急速に変化する乳がんですので、少しでも迷うような場合は漫然と乳腺炎の治療をするのではなく、一度生検で確認をすべきであることは間違いありません。