視触診は必要か
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先日、右ワキのリンパ節が腫れていると40歳代のふくよかな患者様が受診されました。
実は当院受診前に他院乳腺外科を受診し、画像上両側乳腺、腋窩(ワキ)ともに異常なしと診断されたそうですが、視触診してもらっていないのでわからなかったのではないかと心配で当院を受診されたそうです。
【患者さんデータ】
40歳代女性。右ワキリンパ節の腫張を訴えている。視触診をしてもらっていないことから不安になり受診。
私は、診察時問診の上で必要と判断した患者様に対し視触診を行っています。ですから、すべての患者様に視触診をしているわけではありません。ただし、ご本人が“しこり”を訴える場合は必ず視触診をしています。しこりがどのような性状か判断するのも理由のひとつですが、もうひとつの理由として本人がしこりと思っていても、正常乳腺組織の一部を“しこり”と訴えていたり、まったく乳腺外科の範疇ではないしこりを訴えている場合もあるからです。正常乳腺組織は個人差があり、硬く感じたり、しこりのように触れたりすることもあります。また、乳房や腋窩(ワキ)の粉瘤など(皮膚のおでき、皮膚科的疾患)を訴えて受診される場合も多いです。それと、患者様が“ワキのしこり”として受診される患者様で、正常な皮下組織(いわゆる脂肪)を“しこり”として受診されることも多いのです。
ここで、大前提として“しこり”を診察する場合、画像所見が重要で視触診は補足的な検査であることを知っていただきたいです。本当に“しこり”が存在するなら、必ずマンモグラフィや超音波検査で検出されます。逆に触って“しこり”と思ってもそれがマンモグラフィや超音波検査で存在しない場合は、“しこり”と自分が感じているだけです。
画像検査は触ってわかるしこりはもちろん、触ってもわからないしこりも検出できます。
この患者様を視触診したところ、やはり正常な皮下脂肪を“リンパ節が腫れている”と訴えていることがわかりました。ご本人が希望されましたので、念のためマンモグラフィと超音波検査で確認したところ、やはり両側乳腺、腋窩ともにまったく異常ありませんでした。
対策型検診(自治体が行う検診)では、2016年には国からの通達でその有効性が不明として視触診を乳がん検診の推奨から外しています。ただし、同年秋ある新聞ニュースにもなりましたが、約半数の自治体では視触診を継続していることがわかりました。
視触診を推奨から外す代わりに超音波検査を導入すべきとの意見もありますが、死亡率減少効果がデータ上明らかではないことや、超音波導入の体制づくりの問題もあり現時点では自治体検診ではマンモグラフィ単独検診が推奨されています。
ただし、都内でも一部の区ではマンモグラフィ、超音波検査が選べるようになっているところも出てきており、別項でも触れましたがいずれはマンモグラフィ単独では“しこり”タイプの乳癌が検出しにくい場合はマンモグラフィ+超音波併用検診の流れになってくると思います。
自己触診はなかなか判断が難しいことも多いとは思いますが、“しこり”かな?と思った場合は乳腺外科を受診してみてください。そして、画像検査で問題なければ安心していただいて大丈夫です。