【日々の診療より】~”乳房全体が硬い”という症状から発見された乳癌の一例~
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【日々の診療より】
先日60歳代の女性が次のような訴えで受診されました。
『2ヵ月前から左乳房全体が硬くなってきて、乳首を引っ張っても動かないんです』と。患者様は、これまで病気をしたことがなく元気で、乳がん検診も受けたことがなかったそうです。
○患者さんデータまとめ
60代女性。既往歴なし。左乳房全体に硬化を訴え、外来を受診。
視触診上、左乳房全体の皮膚硬化と左外上部に4cm大の硬いしこりを触れました。
右乳房は年齢相応に軟らかく触れましたが、左乳房は患者様がおっしゃるように、触っても固定されたように動かず、全体的に硬くなっていました。また、皮膚も一部紫色に変色していました。
視触診で“炎症性乳癌”と考え、検査を行いました。
画像:http://www.gan-info.com/329.2.html
【検査結果】
マンモグラフィでは左乳房外上部に分葉状腫瘤、その周囲に広範囲に広がる構築の乱れを認めました。また左乳頭乳輪部を中心に皮膚肥厚も確認できました。
超音波検査ではマンモグラフィの腫瘤と一致する部位に不整形低エコー腫瘤を認め、また左乳腺全体の炎症像と皮膚肥厚を認めました。
広義の炎症性乳癌疑いにて生検を行い、乳癌の診断がついたため他院紹介となりました。
【今回のポイント】
炎症性乳癌は臨床的には比較的若年に発症し、皮膚の発赤、硬結、浮腫、熱感などの炎症所見を伴う癌です。豚皮状pig skinや橙皮様peau d’orangeと表現される(豚の皮や、オレンジの皮の表面のザラザラ感を想像してください)典型的な皮膚所見を示す場合もあります。狭義の炎症性乳癌では明らかな腫瘤を触れず、乳房3分の1を超える広範な炎症所見のみですが、二次性炎症性乳癌(広義、今回の患者様)では乳房内に明確な腫瘤を形成します。炎症性乳癌はこの患者様のように比較的急速に炎症症状が現れることが多く、また明らかな左右差を認めることから自覚症状として認識することはそれほど困難ではないですが、一般的に診断時には腋窩リンパ節転移など局所進行例が多くを占めます。
この患者様でも左腋窩に多発リンパ節転移を認めました。
画像:http://blogs.yahoo.co.jp/noranon3/13872527.html
ちなみに同じ乳房の炎症症状を呈する病態“急性乳腺炎”は授乳期に多くみられる細菌感染症です。授乳期でもないのに乳房の炎症症状(皮膚の発赤、浮腫や熱感、硬化)を認める場合は乳房検査をお勧めします。