がんの増殖能を表すki67とは?
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当院で乳がんの診断をし、他院ですでに手術を終えた患者さんから相談があるとのことで連絡があり、先日外来にいらっしゃいました。術後治療をどうするかという段階なのですが、手術の病理所見がいずれも微妙な値で、化学療法を上乗せすべきか、また上乗せしないか、どちらを選択しても治療としては間違いではないという結果でした。
このような場合、以前このブログでも書いたoncotypeDXという遺伝子検査がその判断の一助になることもありますが、この検査は数十万円かかりますし、また検査をしたとしても、結局グレーな結果にしかならないこともありますので、このoncotypeDXをするかしないか、それもまたご本人は判断に迷うことも多いです。結果が必ず白黒はっきりするなら、まだ高くてもよいのですが。
乳がん治療の化学療法について
今回はそのoncotypeDXの話しではなく、この患者さんが化学療法するか迷われている病理所見のひとつである”ki67”について少しだけお話ししようと思います。
乳がんの治療方針を立てるのに重要なファクターとして、病気の広がりを表す“ステージ”とがん細胞の性質を表す“サブタイプ”があるということを以前お話ししました。そのうち“サブタイプ”のタイプ分けに必要なものが、このki67です。ki67は細胞周期の中で、休止期G0期以外のG1、S、G2、M期にある細胞、すなわち増殖している細胞で発現している核内蛋白です。このki67に対する抗体検査をして%の数字で示します。
でも、G0…M…たぶんよくわかりませんね。ざっくり説明すると、がん細胞でも分裂して増えようとしている細胞と、眠っていて増えようとしていない細胞があります。すぐに大きくなったり、転移してしまったりするような乳がんであれば、一般的にki67は高い値になります。逆にしばらく経って、ようやく一回り大きくなったかしら?とか、ずっと前からしこりがあるけどリンパ節転移すら起こっていないくらいのおとなしい乳がんであれば低い値になります。
ただし、この値は検査に使用する抗体、また判断する施設(病理医)によって、同じ検体を検査してもまったく同じ値にはならないことが結構あります。それでも明らかに高い/低い値であればよいのですが、Ki67が20~30%台くらいで、他の所見も微妙な数値であったりすると医師でも迷うことがあるくらいですから、当然患者さんが判断するのは難しいですよね。
この患者さんはとても理解力のある方なので、私といろいろ話しをした中で、ある程度の方向性をつけて帰っていかれたような気がします。私としては嬉しい限りです。