シリコンインプラントによる乳房再建と血液のがんについての問題
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他院で乳がんの手術を受け、もうすぐシリコンインプラント( ゲル充填人工乳房 )による再建を受ける予定の患者さんから
“シリコンの問題が出ましたけど、先生どうしたら良いと思いますか?”
と質問がありました。
私共の施設では手術を行ってはおりませんが、私もそのうち患者さんに質問されるだろうとは予想していた問題です。
人工乳房挿入によりある種の血液がん(リンパ腫)がまれに発生するということは以前より知られており、海外ではこれまでにも報告がありました。2016年にWHOの分類で、人工乳房挿入後のリンパ腫については通常のリンパ腫とは別のカテゴリーに分類されることにもなっています。
また、今春フランスで、ある種の人工乳房(表面がざらざらした“テクスチャードタイプ”と呼ばれるもの等)が禁止になるというニュースもありました。同国では『まれとはいえ、深刻な危険をもたらす恐れがある』という判断の上、そのような措置になったようです。
そしてついに、日本国内で先日初めての報告がありました。この方は17年前に乳癌術後の乳房再建手術を受けた方で、現在はリンパ腫の治療中とのことです。
人工乳房挿入後に起きるリンパ腫は進行が遅く、早期に発見されれば治癒が期待できると言われています。
また、国内で1件報告があったことですぐに“危険である”と決めつけることはできませんので、今後のデータ蓄積を待つしかありません。
しかし、今回私に相談してくださった患者さんのように、その選択が差し迫っている患者さんにおいては、非常に難しい問題だと思います。ありきたりではありますが、現状では主治医からリスクについて十分説明を受け、理解した上で自分はどうするか判断するしかありません。
乳がんの患者さんにとってはリンパ腫のリスクがあると説明されれば、それがまれなものとわかってもなかなか選択に躊躇するようになるとは個人的には思いますが。。。本当に難しい問題です。
5年以上前、乳癌の患者さんに対する人工乳房再建手術が保険適応になって以降、全摘+再建術の手術件数がどんどん上昇していましたが、今後この傾向がどのように変化していくのか、注目したいと思います。
[過去記事]
[参考ページ]
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会 – ブレスト・インプラント(ゲル充填人工乳房)による乳房手術を受けた(受ける)方へ
http://jopbs.umin.jp/medical/guideline/docs/BIA-ALCL4.pdf
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