予防的な乳房切除
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何年か前、アメリカの女優さんが乳癌卵巣癌のリスクが高い遺伝子異常を持っていることから、予防的に両側乳房切除術を受けたことが大きな話題になったことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。
これまで日本の乳癌診療のガイドラインでは、遺伝性乳癌(BRCA1またはBRCA2遺伝子変異)の乳癌患者さんに対して、対側(乳癌と診断されていない側の乳房)を予防的に切除することについては、乳腺外科の診療および遺伝カウンセリング外来の中でその意義および注意事項につき十分に説明を受け、理解した上で、患者さんが自らの意志で選択する場合において検討してもよいという位置づけ(十分な科学的根拠はないが、細心の注意のもと考慮してもよいというレベル)でした。
しかし先日、乳癌学会は、遺伝性乳癌について、将来的な乳癌発症のリスクを減らすため、対側の未発症の乳房を予防的に切除する手術をカウンセリングの体勢が整っているなどを条件に“強く推奨する”という推奨レベルに改定しました。これは、乳癌の発症や死亡を、予防的切除によって確実に減らせるというデータが得られたことによります。
乳癌の患者さんが誰でも、またどんな施設でもこのような手術を受けられるわけではありません。また、予防的な手術(病気を治す目的ではなく、あくまで予防のため)ですので、保険適応になる可能性が今後も低いと思われます。さらに、患者さんそれぞれで考え方が違うことは当たり前ですので、条件にも入っているようにあくまで患者さんが自発的に希望した場合にとなります。
予防的切除をしても、またしなくても間違いというわけではありません。ただし、これまでどうしたらよいか悩んでいらっしゃった遺伝性乳癌の患者さんにとっては、推奨レベルが上がったということには、ひとつの判断材料として大きな意味があるのではないでしょうか。