嚢胞内腫瘍について
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先日、40歳代の患者さんが半年ほど前から右胸に大きなしこりを自覚していると受診されました。しこりに気付いてすぐ他院を受診し、画像検査を受けたところ『ぶつけたか何かで血が溜まっているだけ』と言われたそうです。その際、穿刺吸引し(注射器で液体内容を取り出すこと)血液成分が確認され、その血液を細胞診に提出しclassⅡ(明かな良性細胞)だったそうです。念のため6ヶ月後経過観察をと言われたものの、血の溜まりによるしこりが時間がたっても小さくならないので心配で当院を受診されました。
もしぶつけた場合、よほどのことがない限り血液は時間とともに吸収されるはずですが、確かに触診で右乳房下部にφ50mm大のしこりを触れました。そこでマンモグラフィを撮ってみると、右乳房下部に大きな丸い腫瘤が確認できました。ただし、その腫瘤の境界の一部はぼんやりとして不明瞭で、また単純に血の溜まりにしては濃度が高い印象で、カテゴリー4(癌の可能性が高い)の所見でした。
超音波検査でも、この腫瘤は確かに丸い袋(嚢胞)の中に血が溜まってはいましたが、その嚢胞の壁から内部に突出した充実部(腫瘍性病変)が確認できました。嚢胞内腫瘍の典型的な所見です。マンモグラフィの所見と合わせて考えると、嚢胞内癌を疑うものでした。血液成分を十分取り除いた後、その充実部に対して吸引式組織生検を行い乳癌の診断がつきました。嚢胞内腫瘍の場合、血液成分を細胞診しても良性悪性の判断はなかなか困難です。
嚢胞内腫瘍とは液体成分を含む嚢胞内に腫瘍性病変が存在するもので、良性と悪性があります。良性で代表的なものが嚢胞内乳頭腫と呼ばれるものです。腫瘍性の部分が悪性の場合は嚢胞内癌になりますが、良性・悪性いずれの場合もその液体成分については漿液性(黄色い分泌液)であることもありますが、血性であることが多いです。
とにかく、嚢胞内の成分が血性であった場合、かつ充実部があった場合には精査が必要ですし、また良性であっても血性成分が溜まってしまっている場合には、病変摘出が基本です。
なお、当院にはおそらく私が以前に書いたブログを見て、他院で嚢胞と指摘されたのでと受診される方がたくさんいらっしゃいますが、嚢胞(単純性嚢胞)と嚢胞内腫瘍は同じ嚢胞という単語がついても、全くことなるものですから、例えば乳がん検診の結果に“嚢胞”と書いてあったからと言って、=嚢胞内腫瘍ではありません。嚢胞内腫瘍が考えられるのであれば、普通は“嚢胞内腫瘍疑い”ときちんと書いてありますので心配しないでくださいね。