嚢胞が心配

 職場の一般健診のオプションで乳がん超音波検診を受けておられる患者様は多いと思います。その結果表でよく目にする“乳腺嚢胞”という所見がありますが、最近この所見を心配し受診される患者様がおられます。

 乳腺嚢胞とは、乳腺内で分泌物を乳頭まで運ぶ管(乳管)に分泌物が溜まり袋状になったもので(単純性嚢胞)、誰にでも認められる良性所見であり問題ありません。この所見を心配して受診された患者様にに対し、当院で再度超音波を実施してもやはり単純性嚢胞の所見のみで問題ないことがほとんどです。
 ただ、直近の超音波検診で“乳腺嚢胞”と診断された2人の患者様が、当院で乳癌と診断されるケースを最近続いて経験しましたので紹介させていただきます。

[ケース1]

3ヶ月前の検診で“右乳腺嚢胞”問題なし、最近左乳房から左ワキ周囲の痛みが気になるため受診された40歳代の患者様です。既往歴や家族歴はありませんでした。
左腕を挙げた時に痛みを感じるという主訴でしたので、肩関節周囲炎など整形外科的な症状の可能性が高いと考えましたが、念のためマンモグラフィと超音波検査で確認しました。

[ケース2]

 1ヶ月ほど前に受けた検診の判定表に“左乳腺嚢胞”良性所見で問題なしと記載されていたが心配なのでと受診された30歳代の患者様です。既往歴や家族歴はありませんでした。記載されている所見は問題ない旨説明しましたが、本人の希望もあり念のため超音波検査で確認しました。

 2人とも数ヶ月以内に乳がん超音波検診を受けていて“嚢胞”の所見のみでしたが、結論からすると2人とも当院にて精査の結果、乳癌の診断となりました。いずれも組織型は非浸潤性乳管癌(DCIS)でした。ともに超音波画像では一見“濃縮嚢胞”(後述)に見えるのかも知れませんが、境界部が粗造な印象の腫瘤像が同じ腺葉に複数連なっており、まず第一に非浸潤癌を疑わなければいけない所見でした。(乳腺には分泌物をつくり、それを乳頭に運ぶ働きがありますが、乳頭から外側に向かってみかんの房のようなユニットが複数集まった構造をしています。このユニットを“腺葉”と言います。)

 乳癌が乳房内に広がるパターンの一つとして、分泌物を運ぶ管(乳管)を這うように広がるものがあり、途中でいくつかの腫瘤が連なったような所見になる場合があります。ひとつひとつの腫瘤は確かに濃縮嚢胞にも見えないこともないですが、1つ1つの腫瘤をよく観察し、また全体像としても捉えるときちんと乳癌と診断できます。

 嚢胞で心配される方の多くはもちろん単なる嚢胞と思いますので、むやみに心配する必要はありませんが、今回2人の患者様が同じような所見でたまたま当院を受診して、乳癌の診断になったことで、私も少し驚いたので紹介させていただきました。

“嚢胞”が含まれる所見いろいろ

①単純性嚢胞
単純に分泌物が溜まっているのみ。超音波検査では無エコー腫瘤。

②濃縮嚢胞
単純性嚢胞の蛋白などの内容物がやや混濁している。超音波検査では低エコー腫瘤として確認できる。ただし、画像では主に線維腺腫など充実性腫瘤との鑑別が難しいことも。(今回のケースはこれに該当するのかな?)

③嚢胞内腫瘍
嚢胞内に充実部分(細胞成分)が確認できる場合は嚢胞内腫瘍(嚢胞内癌を含む)の可能性があり精査が必要です。

④小嚢胞集簇
小嚢胞が集まって認められる所見で、主に乳腺症が疑われるが非浸潤癌でもみられる所見であり、これも精査対象です。

乳がんでも手術したくない

【日々の診療より】

 30歳代後半の女性が左乳房腫瘤を主訴に受診されました。これまで元気で病院にはほとんどかかったことがなく、乳がん検診も受けたことはなかったそうです。家族歴もありませんでした。

 視触診上、左乳頭直下にφ30mm大の硬いしこりを確認、また左脇の下にもφ15mmまでの腫れたリンパ節を認めました。左乳癌腋窩リンパ節転移疑いの所見でしたので早速いろいろ検査を行いました。

【検査結果】

 マンモグラフィ上、左乳頭直下に背景乳腺濃度上昇を伴う構築の乱れカテゴリー4を認めました。また左腋窩には腫大リンパ節を認めました。超音波検査でもマンモグラフィの所見に一致して左乳頭直下にφ28mm大不整形低エコー腫瘤、また左腋窩には腫大リンパ節を複数認めました。乳腺腫瘤に対し針生検、腋窩リンパ節に対し細胞診を行い、予想通りの結果でした。

 局所的に進行していましたので、他臓器転移の有無を確認するためCT検査などを追加しましたが、幸いなことに他に病変を認めませんでした。画像所見からはステージⅡB(サブタイプはルミナールハーツータイプ※)の診断でした。標準治療としては、原則術前化学療法を行った後手術になる旨説明させていただきました。

【治療をどうするか】

 30歳代の若い女性でしたので、手術を含めた治療方法について心配されるだろうと思い、乳癌治療ではトップランナー的な施設へ紹介させていただきましたが、後日再度来院され“手術はしたくないので、知り合いが勧めているクリニックに行きたいと思っている”と相談されました。

 乳癌と診断された患者様の中には、この患者様と同じように乳房の手術に強い抵抗感があり、標準的な治療(根治、つまり病気が治る見込みがある段階では手術が必須)とは異なる治療方法を探す方も一部いらっしゃいます。重大な病気に対してどのような治療を選択するかは最終的にはご本人が決めるものですし、また一人一人の人生観なども関係してくることですから、その患者様にとって何がよい選択、悪い選択と一概に言えないことは一個人としては十分理解しています。ただし一人の乳腺外科医としては、やはり根治が見込める段階で発見されたのであれば、標準的な治療を選択することを勧めます。現在治験段階の凍結療法やラジオ波療法など、専門的な施設で手術の代わりとなる方法を行っている場合もありますが、これらの方法も大きな意味では手術と同様“病変を取り除く”治療と言えます。

 今回の患者様は凍結療法などとも異なり、乳房に何らの手を加えることのない治療のようでしたが、私としては標準的な治療で十分治る見込みのある段階であり、手術をする方向で考えて欲しいと時間をかけて説明させていただきました。この患者様は、最終的には当初の予定通りの施設を受診してくださいました。
特に、乳癌の場合乳房を失うという女性にとって非常に大きな問題を伴うこともあり、これについての考えは人それぞれであるとは思います。ただ、ひとりの医師としてはやはり乳房をどうするではなく、病気を治すことを最大の目標にしてより良い治療法を選択していただきたいと思っています。
 
※乳癌は“ステージ”と“サブタイプ”の2つから治療方法を決定します。サブタイプについてはまた別に説明する予定です。

視触診は必要か

先日、右ワキのリンパ節が腫れていると40歳代のふくよかな患者様が受診されました。

実は当院受診前に他院乳腺外科を受診し、画像上両側乳腺、腋窩(ワキ)ともに異常なしと診断されたそうですが、視触診してもらっていないのでわからなかったのではないかと心配で当院を受診されたそうです。

【患者さんデータ】

40歳代女性。右ワキリンパ節の腫張を訴えている。視触診をしてもらっていないことから不安になり受診。

私は、診察時問診の上で必要と判断した患者様に対し視触診を行っています。ですから、すべての患者様に視触診をしているわけではありません。ただし、ご本人が“しこり”を訴える場合は必ず視触診をしています。しこりがどのような性状か判断するのも理由のひとつですが、もうひとつの理由として本人がしこりと思っていても、正常乳腺組織の一部を“しこり”と訴えていたり、まったく乳腺外科の範疇ではないしこりを訴えている場合もあるからです。正常乳腺組織は個人差があり、硬く感じたり、しこりのように触れたりすることもあります。また、乳房や腋窩(ワキ)の粉瘤など(皮膚のおでき、皮膚科的疾患)を訴えて受診される場合も多いです。それと、患者様が“ワキのしこり”として受診される患者様で、正常な皮下組織(いわゆる脂肪)を“しこり”として受診されることも多いのです。

ここで、大前提として“しこり”を診察する場合、画像所見が重要で視触診は補足的な検査であることを知っていただきたいです。本当に“しこり”が存在するなら、必ずマンモグラフィや超音波検査で検出されます。逆に触って“しこり”と思ってもそれがマンモグラフィや超音波検査で存在しない場合は、“しこり”と自分が感じているだけです。

画像検査は触ってわかるしこりはもちろん、触ってもわからないしこりも検出できます。

この患者様を視触診したところ、やはり正常な皮下脂肪を“リンパ節が腫れている”と訴えていることがわかりました。ご本人が希望されましたので、念のためマンモグラフィと超音波検査で確認したところ、やはり両側乳腺、腋窩ともにまったく異常ありませんでした。

対策型検診(自治体が行う検診)では、2016年には国からの通達でその有効性が不明として視触診を乳がん検診の推奨から外しています。ただし、同年秋ある新聞ニュースにもなりましたが、約半数の自治体では視触診を継続していることがわかりました。

視触診を推奨から外す代わりに超音波検査を導入すべきとの意見もありますが、死亡率減少効果がデータ上明らかではないことや、超音波導入の体制づくりの問題もあり現時点では自治体検診ではマンモグラフィ単独検診が推奨されています。

ただし、都内でも一部の区ではマンモグラフィ、超音波検査が選べるようになっているところも出てきており、別項でも触れましたがいずれはマンモグラフィ単独では“しこり”タイプの乳癌が検出しにくい場合はマンモグラフィ+超音波併用検診の流れになってくると思います。

自己触診はなかなか判断が難しいことも多いとは思いますが、“しこり”かな?と思った場合は乳腺外科を受診してみてください。そして、画像検査で問題なければ安心していただいて大丈夫です。

マンモグラフィと背景乳腺濃度

まず、一口に“乳がん検診”と言っても、大きく2種類が存在します。

①対策型検診・・・集団全体の死亡率減少を目的として実施、公共的な予防対策として主に自治体単位で行うもの

②任意型検診・・・個人のがんの可能性を確認する検査、当院での乳がんドックを含む

まずは、対策型検診とマンモグラフィの背景乳腺濃度について説明します。

現在、日本における対策型乳がん検診については『40歳以上の女性、2年毎のマンモグラフィ検診』が推奨されています。この方法で乳がん検診を受けた場合、メリットがデメリットを上回る(乳癌による死亡率を下げる>被ばくや不必要な生検実施などの不都合)ことが研究データ上明らかであるためです。

ただし、マンモグラフィでは“しこり”をつくるタイプの乳癌が検出しにくい場合があります。これはマンモグラフィの“背景乳腺濃度”の違いによります。

ちなみに“石灰化”でみつかるしこりをつくらない(ことが多い)乳癌はマンモグラフィでの検出が容易です。

http://radathome.com/2016/01/22/%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A7%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%80%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%A2%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%81%AE/

乳房内には乳腺組織と脂肪成分(所謂“脂肪”です)が入り交じって含まれますが、マンモグラフィの背景乳腺濃度の違いはこの乳腺組織と脂肪成分の含まれる割合の違いによって生じます。

簡単に言うと、

乳腺組織多い→白く映る(濃度高い)→癌のしこりも白いのでわかりにくい

脂肪成分多い→黒く映る(濃度低い)→小さな白いしこりでもわかりやすい

の違いです。

脂肪性乳腺や乳腺散在の場合、マンモグラフィのみで小さなしこりから石灰化まで検出が容易ですが、高濃度乳腺ではマンモグラフィのみでは小さなしこりの検出が困難で、超音波検査も併用することがベターではないかと言われつつあります。不均一高濃度も高濃度乳腺に準じます。

現在はまだ高濃度乳腺=マンモグラフィ+超音波併用検診推奨とはなっておりません。超音波を推奨するためには自治体でその体制が整っていないといけませんが、現状まだその体制を整えることの難しい自治体が多いことも事実です。実際、一部の自治体などでは問題点など議論されているところではあります。

しかし、おそらく超音波検診の体制が整えば、近い将来その方向に向かっていく流れであることには間違いないと思います。

一般的に大きく誤解されていることであり、別項『超音波検査についての誤解』でも少し触れていますが、マンモグラフィで高濃度乳腺だからしこりが見つけにくい→超音波がよいではありません。上述したように、乳癌は“しこり”で見つかるタイプだけではなく、“石灰化”でみつかるものもあり、これらどちらも検出可能なマンモグラフィが第一選択です。

また、当院で行っているような任意型検診は個人個人の希望により若年者も含めて実施するものですので対策型とは考え方が異なりますが、上記の対策型検診方法をご理解の上検査方法を選択することをお勧めします。

ちなみに、当院乳がんドックのマンモグラフィ結果表にはこの背景乳腺濃度を記載し、次回からより良い検診方法を選択していただくよう努めております。

生検をすべきか~生検の必要性~

最近40歳代の女性が、『5年くらい前から線維腺腫と言われて経過観察してもらっていますが、最近大きくなってきたような気がしているので生検してほしいです。』と受診されました。過去の画像を持参しており、1年半前の超音波検査ではφ10mm程度であったしこりが、直近で受けた検査ではφ22mmと大きくなっていたものの、今まで診てもらっていた医師からは、経過観察のみで生検はいらないと言われたため、心配とのことでした。これまで生検は受けておらず、画像のみで経過観察してもらっていたそうです。既往歴や家族歴は特にありませんでした。

【患者さんデータ】

40代女性。既往歴や家族歴なし。約5年前から線維腺腫と言われ経過観察中。

【検査結果】

視触診上、右外側上部にφ25mm大の弾力のある腫瘤を触れました。

マンモグラフィでは視触診と一致する部分に境界明瞭腫瘤カテゴリー3を認めました。

超音波検査でも同部位に分葉状低エコー腫瘤φ23mm大を認めました。

画像上、線維腺腫の他、葉状腫瘍や乳癌(充実腺管癌)の可能性も考えられる所見であったこと、1年半前と比較し著明な増大傾向を認めることから生検を勧めました。

生検の結果は葉状腫瘍であり原則摘出の必要がありますので、手術可能な施設へ紹介いたしました。

*線維腺腫、葉状腫瘍についてはAIC八重洲クリニック乳腺外科専門外来ホームページをご覧下さい                         http://breast-imaging.mri-mri.com/

 【今回のポイント】

この患者様のように他院で経過観察と言われたものの心配で生検を希望されて当院を受診される患者様が時々いらっしゃいます。特に、昨年ある芸能人の話題が上った際にはこのような患者様がかなり増えました。

私たち医師は、その病変が生検すべきかどうか画像所見により判断しています。生検は侵襲的な検査(人の体にメスを入れる、針を刺すなどの負担のかかる検査のことです)であることから、必要な患者様のみに生検をすべきであるのは当然です。患者様が心配しているから検査するという原則ありませんので、実際希望に添えない場合もあります。

今回の患者様の場合、

・当院の検査結果のみから判断しても治療の必要な葉状腫瘍や乳癌の可能性があったこと

・サイズが明らかに増大していること

この2点から生検の必要があると判断致しました。画像はあくまで推定ですので、細かい所見にもよりますが、良性疑いの腫瘤でも増大傾向を認める場合は、やはり万が一悪性の可能性もふまえ、生検にて確定診断をつけることを勧めています。

 

超音波検査(エコー)は、マンモグラフィーよりがんを見つけ出せるって本当??

【日々の診療より】

先日、20歳代後半の女性が職場の乳がん超音波検診で要精査になったと受診されました。

結果表には“右乳腺腫瘤、要精査”と書かれていました。その施設からは『若い方はマンモグラフィでは判りにくいので超音波を』と毎回勧められているとおっしゃっていました。

既往歴や家族歴はありません。体型、乳房ともかなりふくよかな患者様でした。

視触診上異常なく、持参した他院の超音波検査画像を確認すると、指摘されている病変は正常な乳腺組織内の単なる脂肪組織に見えましたが、マンモグラフィと超音波検査で確認しました。

患者さんデータまとめ

20代女性。既往・家族歴共になし。乳がん検診にて要精査の結果。

【検査結果】

マンモグラフィ、超音波検査ともに異常はありませんでした。

なお、マンモグラフィでの背景乳腺濃度※1は、“脂肪性乳腺”でした。

【今日のポイント】

現在、日本の乳がん検診は“40歳以上の女性、2年毎のマンモグラフィ検診”が推奨されています。この方法で乳がん検診を行った場合、乳がんによる死亡率の低下が明らかであるためです。多くの自治体ではこの推奨レベルをふまえ、40歳以上の女性に2年毎無料クーポンなどを配布していると思います。

これとは別に、40歳未満の方でも最近では職場の一般検診や人間ドックでオプションの乳がん検診を受けることも多いと思いますが、私の外来を受診される患者様の中で、今回の患者様のように、(一律に)若年層=超音波検診と説明されていたり、またインターネット記事の一部にも『マンモグラフィではしこりの検出困難、超音波検査がよい(これも一律に)』と書いてあったりするそうで、40歳を過ぎても超音波検査ばかり受けておられる方が時々受診されます。

確かに、超音波検査のほうが“しこり”を検出しやすい場合もありますが、あくまで“場合もある”です。若年層イコール超音波がよいではありません。今回の患者様のように若年者でも乳房内に脂肪組織が多く含まれるような場合(脂肪性乳腺)は超音波では見づらく、マンモグラフィのほうがはるかに小さなしこりを含め検出しやすいです。

また、乳癌は“しこり”で見つかるものだけではなく、“石灰化(しこりではない)”で見つかるようなものもあり、これに関しては早期にはマンモグラフィでしか検出できません。

とにかく、一律に“超音波がよい”は間違いであり、ケースバイケースなのです。ですから、乳房の検査は、乳腺外科医のもとでの検査をおすすめします。

※1 マンモグラフィで“しこり”をつくるタイプの乳癌を検出しやすいかどうかはマンモグラフィの背景乳腺濃度によります。これについては別項で説明します。

日々の診療より見えてくる乳癌についての正しい知識、間違った理解

【日々の診療より】

右胸のしこりと痛みを訴えて50歳代の患者様が受診されました。

既往歴に気管支喘息がありました。また乳癌の家族歴(母親)がありましたが、乳がん検診はほとんど受けたことがなく10数年前に一度マンモグラフィを受けたことがあるのみとおっしゃっていました。

視触診上、右外上部に45mm大の硬いしこりを触れました。しこりを押すと痛み(圧痛)も訴えました。視触診上乳癌疑いで検査を行いました。

【患者さんデータ】

50歳代女性、 気管支喘息の既往歴あり

乳癌の家族歴(母親)あり

しこりと圧痛あり

【検査結果】

マンモグラフィでは右外上部に分葉状腫瘤あり、腫瘤内部には悪性を疑わせる多形石灰化を認めました。超音波検査ではマンモグラフィと同じ部位にφ35mm大の不整形腫瘤、内部に高輝度スポット(石灰化)を認めました。生検で乳癌の診断となっています。

【乳癌の症状について】

私は日々乳腺診療をしていますが、最終的に乳癌と診断される患者様の症状を多い順にまとめると①自覚症状なし(乳がん検診で要精査になったので受診)、②しこりがある、③その他(血性乳頭分泌、最近出現した乳頭の陥凹、乳房皮膚の異常、乳房の硬化など)が主なものです。中でも当院では①、②がほとんどを占めます。

 

 

 

 

 

 

http://www.chielife.com/seiri/sikori.html

 

【アドバイス】

他の癌と同様に乳癌でも早期の段階では自覚症状が現れることはほとんどありませんが、この患者様のようにしこりが大きくなってきた場合には“しこり+痛み”“しこり+張り感”などしこりに付随した症状も出現してきます。

ここ数年、“痛み”の症状のみで乳腺外科を受診する患者様が急に増えている印象があります。また、最近では“痒み”で受診されることも多くなってきています。患者様から伺うと『痛い場合は乳腺外科へ』『痒い場合は乳癌かもしれない』とインターネットに書いてあるから心配になると言われます。私も患者様に言われて時々そのインターネット情報を読んでみたりしますが、悲しくなるくらい不確かな情報が氾濫しています。

特に、“痛み”や“痒み”はある程度の局所進行癌によって生じることもある症状の一つではありますが、もし直近で乳がん検診を受けているなら、通常その検診結果は“要精査”になっているはず

 

 

 

 

 

https://relax-job.com/more/ 33043

 

乳癌では(乳癌以外でも概ねそうですが)、自覚症状なし(乳がん検診で要精査になって見つかる乳癌)→進行する(しこりや血性乳頭分泌などの自覚症状が出てきて見つかる乳癌)の流れで発見されます。

もちろん、乳癌好発年齢層の患者様で検診をあまり受けたことのない方が、痛みのみを訴えて受診し、痛みの箇所と因果関係がはっきりしない部位に早期の乳癌が見つかることも経験としてないわけではありませんが、この場合どちらかと言うと“たまたまラッキーにも見つかった”と考えるほうが合点がいきます。

とにかく、マンモグラフィと超音波検査で大きな異常がない場合、症状が出現するような乳癌の存在を不安に考えるのはナンセンスです。心配であれば、一度乳腺外科で検査を受け異常なければ安心してくださいね。

 

 

 

【日々の診療より】~”乳房全体が硬い”という症状から発見された乳癌の一例~

【日々の診療より】

先日60歳代の女性が次のような訴えで受診されました。

『2ヵ月前から左乳房全体が硬くなってきて、乳首を引っ張っても動かないんです』と。患者様は、これまで病気をしたことがなく元気で、乳がん検診も受けたことがなかったそうです。

○患者さんデータまとめ

60代女性。既往歴なし。左乳房全体に硬化を訴え、外来を受診。

視触診上、左乳房全体の皮膚硬化と左外上部に4cm大の硬いしこりを触れました。

右乳房は年齢相応に軟らかく触れましたが、左乳房は患者様がおっしゃるように、触っても固定されたように動かず、全体的に硬くなっていました。また、皮膚も一部紫色に変色していました。

視触診で“炎症性乳癌”と考え、検査を行いました。

                       画像:http://www.gan-info.com/329.2.html

【検査結果】

マンモグラフィでは左乳房外上部に分葉状腫瘤、その周囲に広範囲に広がる構築の乱れを認めました。また左乳頭乳輪部を中心に皮膚肥厚も確認できました。

超音波検査ではマンモグラフィの腫瘤と一致する部位に不整形低エコー腫瘤を認め、また左乳腺全体の炎症像と皮膚肥厚を認めました。

広義の炎症性乳癌疑いにて生検を行い、乳癌の診断がついたため他院紹介となりました。

【今回のポイント】

炎症性乳癌は臨床的には比較的若年に発症し、皮膚の発赤、硬結、浮腫、熱感などの炎症所見を伴う癌です。豚皮状pig skinや橙皮様peau d’orangeと表現される(豚の皮や、オレンジの皮の表面のザラザラ感を想像してください)典型的な皮膚所見を示す場合もあります。狭義の炎症性乳癌では明らかな腫瘤を触れず、乳房3分の1を超える広範な炎症所見のみですが、二次性炎症性乳癌(広義、今回の患者様)では乳房内に明確な腫瘤を形成します。炎症性乳癌はこの患者様のように比較的急速に炎症症状が現れることが多く、また明らかな左右差を認めることから自覚症状として認識することはそれほど困難ではないですが、一般的に診断時には腋窩リンパ節転移など局所進行例が多くを占めます。

この患者様でも左腋窩に多発リンパ節転移を認めました。

画像:http://blogs.yahoo.co.jp/noranon3/13872527.html

 

ちなみに同じ乳房の炎症症状を呈する病態“急性乳腺炎”は授乳期に多くみられる細菌感染症です。授乳期でもないのに乳房の炎症症状(皮膚の発赤、浮腫や熱感、硬化)を認める場合は乳房検査をお勧めします。

 

【日々の診療より】~“乳腺分泌“という症状から発見された乳癌の一例~

【日々の診療より】

最近、次のような患者様が当院受診され、乳癌の診断となりました。

40歳代女性、既往歴や家族歴のない患者様でした。職場の乳がん検診で受けたマンモグラフィ撮影圧迫時、技師より黄色透明に近い右乳頭分泌を指摘され、乳腺外科受診を勧められたため当院受診されたそうです。

ちなみに、マンモグラフィの検診結果は両側異常なし、日常生活において下着が汚れるなど乳頭分泌の症状はなかったとのことです。

超音波検査をしたところ、右に異常があり(所見としては右小嚢胞集簇とそれに連続する乳管拡張像)生検を実施したところ非浸潤性乳管癌の診断でした。

○ 患者さんデータまとめ 

  40代女性。既往歴・家族歴なし。検診まで自覚症状なし。

図引用:http://www.kohjin.ne.jp/womens/nyuusen/byouki8.html

【本日の注目点】

乳頭分泌について

最近、インターネットなどでもいろいろ情報が得られるためか、乳頭分泌を主訴に受診される患者様が多くいらっしゃいます。

その中には、いわゆる“乳頭分泌”ではなく、乳頭乳輪部の皮膚が下着などで器械的刺激を受け乾燥、びらんを繰り返すなかで現れる浸出液を“乳頭分泌”と思い受診されることも多いです。これについては皮膚科的治療の対象ですが、自己判断できないこともあると思いますので、乳腺外科または皮膚科を受診し判断していただくことをお勧めします。

乳頭に開口している乳管(乳房内でつくられた分泌物が流ている管)は、片側乳頭に15~20本くらい存在します。その乳頭部乳管から分泌物が出てくる場合を“乳頭分泌”と呼びます。(乳頭を摘むと分泌物が水滴、ミルク滴のように現れます。)

図引用:http://polto.seesaa.net/upload/detail/image/0807-thumbnail2.JPG.html

乳頭分泌はその性状や色調により血性、漿液性、水様、乳汁様、茶色などに分類されますが、特に血性や茶色の場合は分泌物に血が混じっていることがあるため早めに乳腺外科を受診する必要があります。血が混じっている場合には乳癌が存在している可能性があるためです。また漿液性の場合、生理的な分泌であることもありますが、特に片側乳房からのみ分泌がある場合には、その乳房内に何らかの異常が隠れている可能性を考える必要があります。

乳汁分泌(ミルク)、水様分泌については、例えば卒乳後しばらくしてもみられることがあります。また、授乳の経験がないのに乳汁分泌が続く場合は高プロラクチン血症などホルモン異常の可能性もあります。ホルモン異常が疑われる場合は基本的には産婦人科での検査が必要になります。

【今回の患者様では】

今回の患者様の乳頭分泌は漿液性(黄色透明に近い色調)でした。

40歳代で片側乳房の漿液性分泌を呈し、また超音波画像上の所見が小嚢胞集簇と乳管拡張像であったことから、乳腺症を第一に考えましたが、局所的な病変(その部分だけに変化がある)であることから、乳癌(非浸潤性乳管癌)が存在する可能性も考慮し生検を行ったところ、前述の通り乳癌(やはり非浸潤性乳管癌)でした。

特に、片側であることは今回の診断においてのポイントであったと思います。